2話 「8つの小粒より2つの大粒」
ヒキコは吟遊詩人として生きてみることにした。
もうカンパニーには属さない、その決心は固かった。
一人の詩人として多くの人にポエムを聞いてもらい、
自分と似た人々、心の折れた人々の立ち直るきっかけになりたい
そう思ったのだ。
しかしヒキコは文才がない、魔術書にもあったように
他人への共感性が疎いこともあって、歩み寄ることは向いてないのではないか?
数日間考えた。
そして思いついた。
「ならば自分の話を語ろう、経験を基にしてソレを歌にして聞いてもらうんだ」
「綺麗事やメッキで覆われていない、
ありのままの、そして矛盾だらけの未熟な話をそのまま世に出すんだ」
自分の貧しさも、人に助けられて生きている経験もありのまま歌っていこう。
そうヒキコは決めました。
そうと決まったら行動だ!と自分の暮らしの一部をノートに綴り、
それを近くの町で歌い始めました。
すると興味を持ってくれる人がちらほらと出てきて、
ヒキコはみんなに認知してもらえる事と
共感してもらえることに喜びを感じました。
時には、ありのまますぎる、矛盾した言動に呆れて離れていく人もいましたが
ヒキコは自分が打たれ弱い、スルーできないという特性を理解できていたので
傷つく前に気持ちを切り替えることができるようになってきました。
その時ヒキコは、昔小さなレストランで働いていた時のことを思い出した。
マスター「お客はな、10人中2人が美味しいっていってくれればそれでいいんだ、
美味しい料理はいくらでもある、でもきたくなる店ってのは味じゃない。人柄だ」
そう、みんなに好かれることはない、むしろ好かれることは稀なのだ。
それを知っていれば8人にまずい!とけなされても傷つくことはないのだ。
なんとなく流れていた日々の経験は確かに積み重ねられて、
確かにヒキコのちからになっていた。
「ありのままの自分を好きでいてくれる人を大事にすればいいんだなあ」
2話 ー8つの小粒より2つの大粒ー 完