『ひきこもりのそとこもり』ひきこもり猟師物語

ひきこもりが 生きる場所を探す物語を ここに残していく。

3話  「明確な意思で逃げろ」

ある朝、追跡伝書鳩がヒキコの足元に手紙を落とした。

 

「なんだろう」

拾い上げ、封を開けた。

 

「どこにいるのだ、賠償金は必ず支払ってもらうぞ」

 

ヒキコの気分は沈んだ。

過去に所属していたカンパニーからの手紙だった。

 

 

返事はしなかった。

お金はないし、以前になんども自分の意思を伝えてあった。

そして精神力「MP」を前に進むこと以外に使うことは

それこそ八方塞がりになってしまうことを知っていたから。

 

 

カンパニーから自分の悪評が広がる事は恐れていなかった、

なぜなら

自分の意見はしっかりと持っていたし、

 

そもそも

自分をよく見せようという「メッキ」なんてまとっていなかったから

悪評を広められるという事は、

自分が歌っている、〝ありのままの自分〟

に信憑性を持たせてくれることさえあると思ったのだった。

 

もちろん自分がお金持ちになったなら、

渋ることなくその日のうちに払うのだけど。そう思っていた

 

でもヒキコはお金持ちになりたいわけではなかった。

お金には魔力がある、失敗も恐れなくなるし

なんでもお金で解決できる。

 

そんな方法は本質的な良さを感じない、

そう思っていたのだった。

 

 

でも不自由しないだけのお金は確かに欲しかった。

 

「お金はどこにあるのだろう」

ヒキコは考えながら寒空の下を歩いていた。

 

お金はお金持ちが持っている

銀行が持っている

国が持っている

 

お金持ちはなんでお金を持っている?

 

元から持っている

努力した結果持っている

成功したから持っている

運が良かったから持っている

 

「うむー…」

 

努力した人と成功した人はどうして

お金持ちになれたんだろう。

 

努力した人は我慢ができたからだろうか

成功した人はうまく立ち回れたからだろうか…

 

「おそらくどちらも社会に耐えることができるHPとMPがあったのでは無いか?」

「運も少なからずあったのでは無いか?社会に適したステータスを持っていたのでは無いか?

 

 

そう考えると、自分はどちらも無い。

 

ヒキコはぼーっとしながらたまにしか吸わないタバコを取り出した

 

 

 

運…自分の強み…

 

人に聞いた自分の強みは、人柄だった。

自分ではよくわからないけど何かそういう力があるらしい。

 

ありのままの自分のポエムで名を轟かせ、

人の優しさでなんとか生き延び、

自分にだからできることを増やしていく。

そして運が舞い降りるその時まで賽を投げ続ける。

 

 

 

そしてストレスとなり得るものから  逃げる!!!

 

これしかない

 

ヒキコは〝逃げる〟ことにいいイメージはなかったが

自分のステータスを鑑みると、常識的に逃げてはいけないこと、許されざることさえも

前向きに逃げる!ということがなりたったのだ。

 

自分は稀な精神構造を持つ人間、それを認識した上で

〝明確な意識で逃げる〟

 

それは誰にも責める権利のない、自分を守り、かつ

みんなの好きな〝生産性〟をあげることにつなげることのできる

立派な一手だと気が付いたのだった。

 

「時に逃げて逃げて、そして自分の道を突き進めヒキコ」

そう自分に言い聞かせるようにタバコをゆっくりと擦り消し

力強く歩み始めたのであった。

 

 

ー弱さを認めて、〝逃げる〟を選ぶことができない奴は死ぬしかないー

 

3話 ー明確な意思で逃げろー 完